メトロポリタン美術館で2013年春に開催された展覧会「PUNK: Chaos to Couture」のカタログです。本展覧会は「do-it-yourself」というパンクコンセプトと「made-to-measure」というクチュールコンセプトの関係に焦点を当て、70年代初頭の誕生から今日のハイファッションに与える影響までを調べています。本書の面白いところは見開き左右のページの関係でしょうか。オリジナルとモードに昇華した洋服を並べることで、明らかな参照が見てとれるもの、そこから派生した創造性、はたまた他人の空似のような残滓までを感じ取れる構成となっています。角にスレなどある程度で全体として良好な状態です。著者:Andrew Bolton出版社:Metropolitan Museum of Art発行 : 2013/5/15──────────────────────本書で扱っている現象は端的に言えば低位にあるものが社会に承認されてゆく物語、あるいはカウンターとして生まれたパンクがハイカルチャーに取り込まれてゆく物語です。西側諸国は冷戦がデタント(緊張緩和)期を迎えるまでケインズ的な再分配(redistribution)政策をとる必要がありました。しかしデタントによりグローバル化が加速すると、「途上国の安価な労働力を使えるようになる」→「国内の割高な雇用を維持する必要がなくなる」→「労働組合の票田としての力が低下」します。その結果、労働者保護的な政策を手仕舞いしていったのがサッチャーであり、ギデンズの「第三の道」を謳い再生産(reproduction)政策をとったのがブレアとクリントンでした。しかし「第三の道」も結局は弱肉強食の資本主義である「第一の道」と変わりません。その後「労働組合に支えられてきた政党が対立政党の票田に擦り寄る」→「各政党のマジョリティに対する政策が似通う」と進み、違いを出すためアメリカでは「マイノリティの権利保護を訴える民主党」vs「見捨てられた白人ブルーワーカーが担ぎ上げたトランプ」となって互いに承認(recognition)欲求をばら撒き現在に至ります。音楽ではなく社会現象として見ると、「再分配」と「再生産」の軋轢から生まれ「承認」の時代に文化エリートへと堕落したのがパンクだったのではないでしょうか。